株式会社Beyond Next Energy副社長 COOの上野徹です。
1.VPPAの本質:価格差による価値決定
バーチャルPPA(VPPA)の評価において、将来の卸電力市場価格をどう設定するかが意思決定のボトルネックとなるケースが増えています。
近年拡大しているVPPAは、電力そのものの受け渡しではなく、卸電力市場価格との差額によって価値が決まる差額調整契約(CfD)による環境価値移転契約です。
VPPA契約の価値は、一般に以下の形で表現されます。
Σ_t (S – M(t))
すなわち、市場価格の前提が変わるだけで、契約価値は大きく変動します。
ここで、Sは契約で定められたStrike価格、M(t)は各30分毎の市場価格を示します。
実務上はこれに発電量プロファイルが掛け合わされ、需要家と発電事業者間の差額調整契約の総和が形成されます。
下図は、東京と九州における30分単位の価格推移(折れ線)と、その平均水準(点線)を示したものです。

2.長期契約に伴う時価評価の必要性
VPPAは通常20年程度の長期契約となるため、期間全体にわたる価値評価が重要です。制度面では、多くの場合金商法上のデリバティブに該当せず、商品取引に関する届出は不要と整理されています。
一方、会計上は別の論点が生じ、日本基準ではヘッジ会計を適用しない場合、原則として差額調整契約の公正価値評価(時価評価)が求められます。さらに国際会計基準を採用している場合は、差額調整契約の公正価値評価(時価評価)が必須になります。
このとき、差額調整契約は固定的な資産・負債として扱われるのではなく、将来キャッシュフローの見積に応じて、各決算時点において資産または負債として認識されます。
すなわち、評価は一度限りではなく、将来の卸電力価格予測の変化に応じて継続的に変動する性質を持ちます。
ここで不可避となるのが、「将来の卸電力市場価格をどのように想定するか」という論点です。
この価格前提は単なる入力値ではなく、差額調整契約価値そのものを決定づける中核的な変数であり、想定の置き方次第で評価結果は大きく変動します。
すなわち、VPPAの時価評価は長期卸電力市場価格の問題であると同時に、市場価格をどのようなロジックで生成するかというモデル設計の問題に直結しており、どのような需給構造を前提とするかによって評価結果は構造的に変わります。
しかしながら、従来の長期価格想定は年平均や月平均といった粗い粒度で整理されることが多く、実際の市場で観測される時間帯ごとの価格差や需給構造の変化を十分に捉えられていないという課題があります。
3.従来の価格想定の限界
従来の長期価格想定は、年平均や月平均といった粗い粒度で整理されることが多く、評価の前提としては扱いやすい一方で、実際の市場構造を十分に反映できていないという課題があります。
具体的には、
・再エネ導入による価格構造の変化を反映できない
・時間帯ごとの価格差(スプレッド)を捉えられない
・需給構造の非線形性を表現できない
といった限界があります。
しかし、VPPAの価値は単純な平均価格ではなく、時間帯ごとの価格分布に大きく依存します。特に太陽光発電の拡大により、
・昼間の価格低下
・夕方の価格上昇
といった「ダックカーブ構造」が顕著となっており、平均値ではこの構造を捉えることはできません。
したがって、VPPA評価においては、平均価格ではなく、時間構造を持った価格の想定が不可欠となります。
4.実態メリットオーダーモデルによるアプローチ
弊社では、電力市場の価格形成の本質であるメリットオーダー(限界費用順の供給構造)に基づき、実態に即した価格形成モデルを構築しています。

本モデルでは、
・電力需要
・再エネ出力(太陽光・風力)
・火力電源の供給構成(LNG・石炭・石油)
・ベース・マストラン電源
・燃料価格
・CO2対策費
・連系線効果
といった要素を統合的に扱い、需給バランスに応じて限界費用が決定される構造を再現することで、市場価格を内生的に決定します。
その特徴は以下の通りです。
・30分単位(48コマ)での価格生成
・エリア別の価格推計
・20年以上の長期シミュレーション
・需給構造の変化を反映した動的な価格形成

5.VPPA評価への具体的な価値
このようなモデルにより、VPPA評価において以下の点が可能となります。
(1)時間構造と整合的な差額評価
Σ_t (S – M(t))
を単なる平均ではなく、実際の時間変化を踏まえて評価できます。
(2)価格スプレッドの把握
・高価格帯と低価格帯の差
・再エネ導入による価格圧縮
・収益機会の変化
といった重要な指標を定量的に把握できます。
(3)会計対応の基盤整備
長期卸電力市場価格の予測値を、時価評価の根拠として活用することで、社内外に対して説明力の高い評価が可能となります。
すなわち、VPPA評価における最大の不確実性である「長期卸電力市場価格の予測」を、実務で意思決定に活用可能な形で提供します。
6.本質的なポイント
VPPA評価において重要なのは、「平均価格」ではなく「時間構造」です。
再エネの拡大により、電力市場は均質な価格体系から、時間帯ごとの変動が大きいダックカーブ構造へと変化しています。
このような環境下では、粗い粒度の価格想定では意思決定に必要な精度を確保することは困難です。
7.まとめ
・VPPAの価値は市場価格との差額の積み上げによって決定される
・長期契約であるため、公正価値評価(時価評価)が求められる
・その前提として、長期市場価格の予測が不可欠となる
・問題は、平均価格ではなく「時間構造」にある
・弊社では、30分粒度・実態ベースのモデルによりこれを提供している
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